労働契約法の実務対応
3月1日から「労働契約法」という新しい法律が施行されております。
この法律は、このところ名ばかり管理職やパートタイム労働法など、雇用に関係する問題が多くなっている為に、実はあまり注目されておりません。
国会に出された当時は、ホワイトカラーエグゼンプションの問題で大きく議論されたのですが、上記の問題や結局修正された経緯もあり、小さな形でスタートさせたことになります。
この法律は、これからの雇用管理において、企業に大きな見直しを迫ることも十分に考えられます。従って今回は、概要と実務対応について述べてゆきます。
まずこの法律が施行された背景です。
(1)今まで個別の労働関係を扱う法律が、労働基準法しかなかった。
(2)近年、就業形態や働く側の意識の多様化に伴い、労働者の労働条件が個別に決定、変更されることが増えてきている。
(3)労働紛争を未然に防ぎ、また解決する為労働契約に関する民事的なルールをまとめた法律がなかった。
(労働紛争を解決する為の制度については、個別労働紛争解決制度や労働審判制度が既に整備されていますが、事後的なものでしかありませんでした。)
上記の理由から、今回の労働契約法が立法化され、施行されたという事です。
さてこの法律が実務面において及ぼす影響ですが、法律の柱は以下になります。
○就業規則変更の法理 → 周知手続きと内容の合理性を要する
○権利濫用法理 → 解雇権等の行使は一定の制約を受けること
内容と対策を見ていきます。
労働基準法で、労働者を雇用する際にはその労働条件を文章で明示すべし。と規定されている為、一般的には労働条件通知書を渡すこととされています。
しかし、これすら守っていない企業が非常に多い中、労働契約法では「個別の同意」をうたっているので、労働条件通知書だけでは、更に不十分です。
従来から、私は労働条件通知書ではなく、事業年度ごとなどに労働契約書を見直し、個別に交わすべきであると主張しておりますが、法律がこれを裏づけする形になりました。
また就業規則がある会社は多いですが、従業員が誰でもいつでも閲覧できる状態にしているかどうかとなると、大いに問題があります。
就業規則はあっても、総務に一部あるだけとか、会社の金庫に大事にしまっていて、従業員が自由に閲覧することが不可能である場合が非常に多いのです。
このように就業規則があっても、周知させていない場合には労働条件とは認められない。と労働契約法第7条で示しています。
それではすぐに周知すればと良いのかというと、現在の就業規則には内容に不備な企業が非常に多く、周知できないというのが実情です。今のまま、慌てて周知したのでは、危険です。
そういった企業は、従業員との雇用関係において大きなリスクを孕んでいるといって間違いありません。
就業規則を変更する際は、内容の合理性を求められること、そして解雇権等の行使をする場合のルールが明確になっております。
特に解雇に関しては、その合理的な理由と社会通念上で相当と認められるものを就業規定に定めていく必要があります。就業規則にその理由を合理的に定めるだけでなく、労働者に対し是正の機会を設け、更に弁明の機会を与えることが求められています。
また、出向に関しては、合理性の判断が求められ、その基準は就業規則に定めていること、業務の必要性が有ること、業務の性質が合理的かということに照らし合わせていって、合意の無い出向命令は出すことが出来ないとされています。
条文を読む限りにおいては、今まで裁判等で示されていることを明文化したことにより、常識化していることから大きな影響が内容には無さそうに見えても、実務においては気をつけなければいけないことが非常に多く含まれています。
今回は非常に限定的に法律を施行させていますが、「小さく生んで大きく育てる」のがこの法律の特徴のようです。
今回はそれほど大きな対策が必要なくても、今後3~5年後には少しずつ改正し内容が豊富になっていくことは間違いないでしょう。
そのため小さな対策を見逃していると、会社の雇用管理が大きく時代遅れになってしまう可能性があります。
今からしっかり対策を打っていくことをお勧めいたします!!
(執筆:社会保険労務士 荒木秀)
2008年3月24日